「羊と鋼の森」 宮下奈都ー前にか、わからないが、日々生きていく、進んでいく
#大衆小説 #現在 #日本 #調律師 #新人 #青年男性 #ピアノ #調律とは #仕事とは #才能とは
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12月5日の一冊
淡々とした話の進行が好きな方
ピアノの調律師の仕事に触れてみたい方
優しい話の進行の中にも、悩みや葛藤がちりばめられつつ、見守るような、穏やかな気持ちで読み進められる話が好きな方
に贈りたいと思います。
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*あらすじ
ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
*感想
私は、タイトルは何度もきいたことがあるのに、それだけに手に取るのが、なんとなく遅れて、そのまま読まないまま来たという本が、結構あるのですが、みなさんはいかがでしょうか。そういう本ありませんか。
本作もそういう本の一冊でした。映画化などの映像化されてしまうと尚のこと手に取りづらくなるのです。
本作は、一般家庭のピアノの調律師というピアノが家庭にある方でも普段そこまで詳しくはその職種について知らないのではないかと思われる、仕事にスポットをあてた作品です。
入念な下調べ、取材がなされた上での一作なのだなという印象で、その点でも、とても丁寧に書かれたのだなと思う、一作です。
また、職場の人間関係も単純平易なカテゴライズで、主人公の目線からの同僚を切り取るのではなく、主人公からも同僚の人柄や性格をとらえ損ねているところが、うまく描き出されていると思いました。
繰り返し触れられる、主人公の出身の山々や、故郷の雪深い森の描写も、ピアノの漆黒のイメージと相まってなんだか荘厳な印象を与えます。
リサイタルなどの華々しい仕事の調律ではなく、一般家庭の調律に苦悩し、こつこつ前に進もうとする主人公は、本人も好きだといったピアノの音色と似た、人生の進み方のように思いました。