9月17日の一冊 「最悪の将軍」朝井まかてー民を思う心とは
#時代小説 #江戸時代 #江戸 #徳川綱吉 #将軍在位前から死去まで #将軍職
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9月17日の一冊
- 伝わらにもどかしさに共感したい方
- 機智に富んだ会話が聞きたい方
- 人と人との関係性を、会話から描く小説が好きな方
- 時代小説ははじめての方(日本史知ってると先が予想できると思いますが、それはそれでおもしろかったです。)
に贈りたいと思います。
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生類憐れみの令により、犬公方とも呼ばれた五代将軍・徳川綱吉。一方では、江戸幕府の礎となる文治政治を推し進めた名君ともいわれている。その知られざる劇的な生涯を描いた傑作長編。『小説すばる』掲載を加筆・修正。
朝井まかてさんの本は初めて手に取ったが、人と人の会話から、その人の関係性を描き、それに対する登場人物の見方の描写がすごくわかりやすかったです。他の本も読んでみようと思います。
人も年月を経ると、よくも悪くも変わるものであること、命はなんとはかないのかとも思わされる作品。
特に主人公、綱吉の内心の変化は、将軍、公方となったことが、重圧として綱吉をむしばみ、判断力、体力を奪っていくのは読み進めていて、痛々しいほど。
明晰かつ鋭敏な主君でありつづけることの難しさが随所に記されています。
(本作は、綱吉の将軍就任前から、死去までを描いた、史料にのっとり、作成された時代小説なので、内容にもふれます。)
作中で、将軍に就任してから、数年のうちに、側近堀田正俊を、美濃青野藩主稲葉氏が殺害される。そして、綱吉は、稲葉氏がなぜ、そのような所業に及んだかを聞けず、その場で殺害したことに憤りを感じている。
堀田氏の死去は、綱吉に幾度となく堀田が生きていればとの思いを抱かせることとなり、綱吉をむしばむ。
しかし、死去の数年前に、生じた浅野内匠頭(あさの たくみのかみ)による吉良上野介(きらこうずけのすけ)への刀傷事件では、ただ激怒し、不名誉な形での切腹を浅野氏に申し渡します。
自身がかつては、いわば加害者側の言い分をききたいと考え、聞く機会を失うような、家臣による加害者のその場での殺害を、嫌悪していたにもかかわらず、死去の数年前には、浅野氏が乱心であるとの報告を受けるだけで、理由を聞こうともしない。
個人的には、人というのはこうも変わってしまうのかと、少しおそろしくなりました。
一方、妻信子との会話や、やり取りは機智に富んでおり、とてもおもしろかったです。夫婦が互いを思いやる様は、とても仲睦まじいと感じました。願わくば、信子もそう思っていたように、二人の時間をもう少し、与えてあげたかったです。
そして、時代小説は、読んだことがないわけではないのですが、ここまで史実にのっとりながら、描きながらも、小説として、興味深く、面白いのは、作者の技を感じました。
時代小説をそんなに読んだことのない方でもよみやすいのではないでしょうか。