「灯台からの響き」 宮本輝ー響いてくるものの重厚さに浸りたい
#大衆小説 #現在 #日本 #妻を亡くした夫 #ご近所づきあい #幼馴染 #家族 #灯台めぐり #謎の絵葉書
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12月18日の一冊
家族やご近所づきあいの温かさを感じる話が読みたい方
人生の中で、余裕や人との付き合いを、今のこの時代だから、考えたい方
つながりはあるだけじゃなく、なくす優しさも感じたいという方
に贈りたいと思います。
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*あらすじ
本の間から見つかった、亡き妻宛ての古いハガキ。
妻の知られざる過去を追い、男は灯台を巡る旅に出る――。
板橋の商店街で、父の代から続く中華そば店を営む康平は、一緒に店を切り盛りしてきた妻を急病で失って、長い間休業していた。ある日、分厚い本の間から、妻宛ての古いはがきを見つける。30年前の日付が記されたはがきには、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていた。差出人は大学生の小坂真砂雄。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人からはがきが届いた」と言っていたことを思い出す。なぜ妻はこれを大事にとっていたのか、そしてなぜ康平の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、康平は旅に出る――。
市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える傑作長編。
*感想
作者の作品は、感想が渦巻きすぎて、読後感に、がっつり浸りながら振り返っていろいろ考えたくなる作品が多いです。本作もご多分に漏れずその類の一作です。
まず、登場人物の葛藤について、
ああ、あの時のあのこが負ったさみしさ、悲しさには、この作品のこの登場人物が感じたものと、もしかしたら、同じものがあったんじゃないかなとか。
その悲しさ等に、私は、幼すぎて、寄り添えなかったけど、今なら、寄り添えるのに、とか。
付き合いを断つことがむしろ相手にとってプラスになるというやさしさがあるのは、私にも覚えがあるので、わかります。ただ、友情のようなもの中でも、断つことの優しさがあるというのは、断たなければならない背景にもの悲しさや、断つことで生じるひずみに、もどかしささえ感じてしまう自分がいました。
作品中ででてきた竜飛岬の演歌が思い浮かんでしまいました(古いのかな)
一方で、人の温かさも多分にあふれた作品です。
友を叱咤する友人、つながりを持ち続けようとするご近所、息子や娘と向き合おうとする父親、その中で、感じる妻の面影。
息子や娘の中に、自分が愛した、今は亡き伴侶の面影を見つけることは、うれしく、心が締め付けられる体験なんだろうなと想像すると、そういう瞬間をいつか自分が経験するときが来たら、どんな顔をしてしまうのかと思いはせてしまいました。
また、作品中の灯台めぐりは、私が行ったことのある灯台が登場したので、すごく情景が浮かびました。やはり、物語の世界をより臨場感をもって追体験していくには、実体験が欠かせないような気がします。ほかの灯台もあるいはめぐってみたいなあと思いました。
「スキマワラシ」 恩田陸ーつぶつぶしたピオーネの粒の集まりみたいな
#大衆小説 #現在 #日本 #男兄弟 #物の記憶がたどれる #古物商 #スキマを楽しむ #つぶつぶした感じ #直木賞作家作品
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12月10日の一冊
恩田陸さんが最近気になるエッセンスが凝縮されている一冊を読み方
長くてノンストップみたいな長編は読みづらいけど、短編よりも長編が好きな方
ちょっと空恐ろしい感じがたまらなく好きという方
に贈りたいと思います。
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「スキマワラシ」 恩田陸 集英社 p472 2020.08.05発売 1800円(税別)
*あらすじ
主人公は、古道具屋を営む兄と、兄の仕事を手伝うかたわら、古道具屋の店内でバーを開いている弟。祖父の代からの「纐纈工務店」の屋号で活動する二人には秘密があった。弟は古い記憶を持ったモノに触れると、その思念を読みとることができるのだ。それはまれに訪れる制御不能のものだったが、あるとき、古いタイルに触れて現れた幻視が亡き両親に関わるものだと直感する。
タイルが持つ記憶を追いかけるうち、二人は家族に秘められた謎に向き合うことになる。そして、彼らの視界を横切るスキマワラシとは一体何者なのか。
*感想
ああ、長い、読み終わんない。ってなっていた一冊でしたが、思いのほか、早くはないけど、なんとか読み切れてよかったです。
というのも、長編で構成されてはいるのですが、何章にもわかれているので、読んでも読んでも進んだ感じがしなかったというのが大きかったです。でも、ちゃんとつながっているところに、作者の器の大きさを感じます。
恩田陸大好きな管理人が、行儀よく図書館で順番待ちをして手に入れた一冊。長かった。
やっぱり、作者は少し、背筋がせまくなるような、怪談、ホラー、ミステリーと現実の間を描くのが、得意なんだなと再確認しました。
特に、本作は、全部語りきる前に読者に提示する要素、エッセンスの、絶妙な空白、スキマが、読者の想像をかきたてる仕様になっていて、そういう意味でもタイトルにぴったりな一作です。
そして、自分が知らない、建築や美術、古美術などの話が盛りだくさんにちらばっているのも読んでいて、心地よかったです。
疾走感がある恩田陸作品も好きですが、ふわふわ飛んでるように話が進みながらも、振り返ってみると、あれ、最短距離だったんだな、という不可思議な感じの作品も最近は多いので、その作風が、ようやく馴染んできた感じがします。
小学生の時に、この作家さん、大好き!ってなった思い入れのある作家さんです。年齢を調べて、自分より、(当たり前ですが、)大人と子供ほどの差があると知った時に、いつか生きているうちにこの人の新作が読めなくなるなんて耐えられないと思った作家さんなので(どんな感想なのよ、小学生の私)
これからも追いかけていこうと思います。
過去の恩田陸作品の紹介記事はこちら⇩
taria-voraciousreader.hatenadiary.com
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本作を、読んでから読まれるととても面白い、作者の対談記事もはっておきます。
「まことの華姫」 畠中恵ー腹話術だけど、華姫がまことを語る。
#時代小説 #江戸時代 #腹話術 #姫様人形 #芸人 #親分 #娘 #お悩み解決 #事件解決 #人の過去
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12月8日(火)の一冊
- 無欲な主人公が好きだが、薄っぺらい人は嫌という方
- 過去にとらわれそうになっているが、脱出していく話が好きな方
- 周りに見守られながら、危なっかしさもあるけど、前を向く主人公が好きな方
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「まことの華姫」 畠中 恵 p304 角川文庫
*あらすじ
人形遣い月草と姫様人形お華の迷コンビが江戸の事件を快刀乱麻!
「羊と鋼の森」 宮下奈都ー前にか、わからないが、日々生きていく、進んでいく
#大衆小説 #現在 #日本 #調律師 #新人 #青年男性 #ピアノ #調律とは #仕事とは #才能とは
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12月5日の一冊
淡々とした話の進行が好きな方
ピアノの調律師の仕事に触れてみたい方
優しい話の進行の中にも、悩みや葛藤がちりばめられつつ、見守るような、穏やかな気持ちで読み進められる話が好きな方
に贈りたいと思います。
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*あらすじ
ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
*感想
私は、タイトルは何度もきいたことがあるのに、それだけに手に取るのが、なんとなく遅れて、そのまま読まないまま来たという本が、結構あるのですが、みなさんはいかがでしょうか。そういう本ありませんか。
本作もそういう本の一冊でした。映画化などの映像化されてしまうと尚のこと手に取りづらくなるのです。
本作は、一般家庭のピアノの調律師というピアノが家庭にある方でも普段そこまで詳しくはその職種について知らないのではないかと思われる、仕事にスポットをあてた作品です。
入念な下調べ、取材がなされた上での一作なのだなという印象で、その点でも、とても丁寧に書かれたのだなと思う、一作です。
また、職場の人間関係も単純平易なカテゴライズで、主人公の目線からの同僚を切り取るのではなく、主人公からも同僚の人柄や性格をとらえ損ねているところが、うまく描き出されていると思いました。
繰り返し触れられる、主人公の出身の山々や、故郷の雪深い森の描写も、ピアノの漆黒のイメージと相まってなんだか荘厳な印象を与えます。
リサイタルなどの華々しい仕事の調律ではなく、一般家庭の調律に苦悩し、こつこつ前に進もうとする主人公は、本人も好きだといったピアノの音色と似た、人生の進み方のように思いました。
「13階段」高野和明ーこたつでの一気読みにおすすめ。
#推理小説 #現在 #日本 #冤罪事件 #殺人事件 #死刑制度 #再審請求 #新証拠を探す #江戸川乱歩賞
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12月3日の一冊
- 説明臭くはないけど、死刑制度や死刑執行について核心にせまった解釈説明があるので、理解が深まる。そういうものを垣間見てみたい方
- 時間という期限がある中で、疾走感のあるミステリー小説が好きな方
- お約束だけど、お約束でないどんでん返しが好きな方
に贈りたいと思います。
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*あらすじ
犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。
*感想
年末年始にこたつに入って一気に読むのがいいかなと思います。寝る前に読むには、いろいろ考えてしまうので、なかなか話も進みませんし、あんまり向かないのかなという印象です。
W主人公の一人、南郷の三上への信頼が厚く、三上の前科を考えると、そういう人物に出会えること自体が、この先の三上の人生の中で数少ないことのような気がしました。有難い存在な気がしました。
人の命を奪うというのは、本当に想像を絶することなので、余りあるので、以下は、あくまで私の想像が及ばないという話です。
作中でも触れられていたのですが、3人以上殺害すれば、死刑判決が下るという判例法理からすれば、それだけの人数の殺害は、自らの命を殺すこととイコールだというのは、わかるようなわからないようなことだなと思いました。つまり、殺害行為の際にそのような想像までめぐる人は、皆無なのではないしょうか。だからこそ、自分は死にたくはないけど、そういう事件が起きるのかなとも思いました。
感情面の描写がくどくないので、そういう意味での純粋な推理小説として、楽しめると思います。
後半に入ってからは、私は一気に読み進めました。
作者の処女作ということですが、話のあらすじ、証明の挿入の仕方は、本当に、処女作とはとても思えない素晴らしさだったと思いました。ラストの幕引きの後の後日談のさらっとさが、処女作らしいといえばらしい部分なのかもしれません。
『あしたの華姫』畠中恵ー時代小説だから出せる温かさ、さわやかさ
#時代小説 #江戸時代 #腹話術 #姫様人形 #芸人 #親分 #友情 #お悩み解決
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11月30日の一冊
- 無欲な主人公が好きという方
- 女の子同士の巧妙な会話の掛け合いが好きという方
- なぞかけのようなトラブルを解決して、最後には前を向いていくような前向きになれる話が好きな方
に贈りたいと思います。
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*あらすじ
姫様人形と人形遣い、お江戸で人気の名コンビが帰ってきた!
江戸は両国の見世物小屋で評判の、姫様人形・お華と、その遣い手の月草。月草が声色を変えてしゃべっているはずなのだが、「お華には特別な力がある」「真実を語る」ともっぱら噂だ。両国一帯を仕切る地回りの親分・山越も、娘のお夏を助けてくれるお華には一目置いている様子。ますます栄える盛り場だったが、山越が縁を切ったはずの息子たちが姿を現したせいで、にわかに跡取り問題が持ち上がる。江戸一の盛り場である両国を、次に取り仕切るのは誰なのか? 急に現れた息子たちを不審がる両国の人々は、両国の将来がかかっていると、娘・お夏の婿取りに注目し――。陰謀渦巻く両国で、月草はお夏を守りきれるのか? 一人二役、二人で一人、月草とお華の謎ときが始まる!
*感想
畠中恵さんといえば、有名なのは「しゃばげ」シリーズ、このシリーズも好きなのですが、最近発売された本が読みたいと思って図書館で借りました。しかし、これは2巻とはかいてはないものの、華姫シリーズの2冊目だったみたいです。
主人公月草と、月草の腹話術によって話しているようにみえる、かわいい女の子の声で話すという華姫の掛け合いも面白く、華姫と仲の良い、盛り場の親分、山越の一人娘お夏ちゃんとの会話もとても楽しいです。
最初がお夏とお夏の亡くなったお姉さんとの、会話ではじまります。つかみがさわやかで、時代小説特有のとっつきずらさもなく、読みやすかったです。
謎も、うーん、と悩むけど、最後にはなるほど!と解決されるのがちょうどよい感じです。
主人公の月草が、俺はお華と日銭を稼ぐから、という風に、お金に対して無頓着なのも好感が持てます。
故郷から離れた根無し草のような人々が集まる場所で、家族のように支え合い、暮らしていくのが、なんとも温かく、明るく前を向ける素敵な話でした。
月草の過去や、親分の跡継ぎ問題など気になる要素はまだまだあるので、続きが気になる一冊です。
「蛇行する川のほとり」恩田陸ー夏休みにレモネードを片手に、刺繍のクッションを背にして
#ミステリー小説 #青春小説 #発売当初の現代 #思春期の男女 #従妹 #姉妹 #家族 #複数視点 #綺麗で儚い #夏休み #レモネード
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11月27日の一冊
綺麗ではかなく、危なげで、強い、これぞ恩田陸に登場する思春期の男女をよみたいという方
ある意味昔の少女漫画のような雰囲気も好きという方
登場人物の雰囲気のみだけではなく、ミステリー的な要素もほしいという方
に贈りたいと思います。
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私は図書館で借りたので、下の酒井駒子さんの表紙のハードカバーでした
*あらすじ
演劇祭の舞台装置を描くため、高校美術部の先輩、香澄の、川のほとりにある船着き場のある家での夏合宿に誘われた毬子。憧れの香澄と芳野からの申し出に有頂天になるが、それもつかの間だった。ひとりの美しい少年の言葉が、この世界のすべてを灰色に変えるまでは…。そして、運命の歯車は回り始めた。あの遠い夏の日と同じように―。運命の岸辺に佇む少女たちの物語。
*回顧録(核心のネタバレはなし)
恩田陸の作品にはまり切っていた小学生の時に、一度読んだことがあります。
その時の気持ちにおそらく引きずられた感想なので、正確かは、わからないところがありますが、記していこうと思います。
まず、作品を読む前に思い出せたのは、夏休みに、女の子同士が、絵を描くために集まる話だったということ。
クーラーのきいた川のほとりの家で、レモネードを飲みながら、集まるという、夏休み特有の気だるげで、ゆっくりとした雰囲気の話だったということ。
その雰囲気、イベントに自分自身がすごく憧れたということ。
この3つくらいでした。
もっともいずれも間違った記憶ではないのですが、正確には、登場人物は、女の子4人以外にも、男の子2人。
そして、一番のポイントは、川のほとりの家を提供した、香澄の家族です。
たぶん、小学生だった私には、男女の繊細な心のやり取りや、男女の情愛のようなものは理解できず、自分がすごく憧れた、はかなく美しい情景だけを記憶にとどめたんだと思います。
特に、図書館で借りた時は、3分冊になっていたので、1冊目くらいまでを強烈な印象で記憶に残したのだと思います。⇩の画像のとおりのあっさりとした表紙の、一冊は薄い文庫本くらいの大きさの本だったと思います。
一桁の年で読むには大人すぎたのかもしれません。
県立図書館で借りていたので、子どもの本の貸し出しコーナーと大人の本の貸し出しコーナーはその時は分かれていて、大人の本のところまで借りにいかなければならず、とても背伸びした気持ちになったのを思い出します(しかも書庫から出してもらって借りました)。
すべてを理解できなくても、そのころから、本当に恩田陸は好きだったのだなぁと、とても懐かしい気持ちになりました。
内容もミステリー作品なので、トリック等も予想して読むと楽しいのかもしれませんが、この作品に流れるおそらくあり得ない(高校生をすぎた私にはわかる。)思春期の男女のやり取りが素敵な作品です。